実在するが触知不可能な「半架空の存在」を、擬態を通して間接的に知覚するプロジェクト。私たちの日常は五感で知覚可能だが、惑星や宇宙は手に触れることすら困難だ。「擬態」を通して「日常の五感に翻訳する」ことで、間接的に知覚することが出来るのではないか、と考えた。

シズル感という概念があるように、私たちの視覚は印刷された料理の写真から味や匂い、食感を想像することができる。それが肉や卵といった「いきもの」になると、それがさらに強調される。「生物体は負のエントロピーを食べて生きている」という言葉があるように、食事は人間の生存に不可欠な行為であるが、そこに楽しみを見出してもいる。味覚、匂い、食感の想像を通じて、惑星を間接的に知覚したいと考えた。

これまでは、地図をモチーフに様々な擬態を可視化して来たが、2020年のハムのシリーズをきっかけに、惑星というテーマに辿り着いた。それまでの地図をモチーフにしたシリーズには「高次の相似」を志向していたため、ハムや卵といった幾何的図形を避けていた。
しかしよく見ると、雲や陸、海で構成される地球、クレーターの表情が豊かな月、燃え盛る太陽にガスで包まれた木星のように様々な表情を持つ惑星たちがある。幾何形態の簡素さと表層の複雑さを兼ね備えたモチーフだと気づいた。そこには、宇宙が形成した複雑性がある。一つ一つの国という単位では見た時とは異なる、マクロで眺めた時の表情に新たな視点を見出したいと思うようになった。
可食生命|卵とハム
卵とハムは幼少時からの好物で(回転寿司2皿中1皿を玉子にしていた)、ホテルの朝食ではそれを楽しみに早起きする。似た記憶を共有している人もいるかもしれない。あの黄色を眺めるだけでも少し元気を与えられるような感覚がある。黄色は光に最も近い色彩とゲーテが述べたように、身近にある可食光なのかもしれない。
暗い世の中もあり、インテリアに明るくなれる黄色を配置したいと思い、リソグラフで卵の寿司の絵を描いたことがある。そういった背景から卵をモチーフにした作品を作りたいと思っていた。
